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強い会社とは、「経営者が間違えない会社」ではない
企業再生の現場から学ぶ、変革とリーダーシップの本質
企業は、なぜ衰退するのでしょうか。
社員の能力が低いからでしょうか。
商品力がないからでしょうか。
市場環境が悪いからでしょうか。
もちろん、それらが原因になることもあります。しかし、数多くの企業再生の現場から見えてくる本質は、もっと厳しいものです。
どれほど優秀な社員が集まっていても、経営リーダーの判断を補正できない会社は衰退する。
反対に、強い会社は、経営者が常に正しい会社ではありません。
経営者も間違えることを前提に、その判断を事実と仕組みで修正できる会社です。
これは、これから株式会社IKEMARTが自立した事業会社として成長していくうえでも、決して避けて通れないテーマです。
優秀な社員がいても、会社は破綻する
講演者は、官僚、ベンチャー企業、企業再生、書店経営、地方企業への人材支援という、官・民・学を横断するキャリアを歩んできました。
なかでも大きな転機となったのが、産業再生機構で担当したカネボウの事業再生です。
当時のカネボウには数多くの事業がありましたが、利益を生んでいた事業のキャッシュが、赤字事業の穴埋めに使われていました。
売上や事業数は存在していても、会社全体としては価値を生み出せていない。むしろ、利益を生む事業まで弱らせてしまう構造になっていたのです。
社員一人ひとりは優秀で、現場には高い実務能力がありました。それでも会社は破綻しました。
ここから得られる教訓は明確です。
売上があることと、事業を継続すべきことは同じではありません。
経営が見るべきなのは、売上だけではなく、限界利益、固定費、在庫、キャッシュフロー、将来の成長可能性です。
利益を生まない売上を守るために、利益を生む事業の経営資源を消耗していないか。赤字事業を残すことで、成長事業への投資余力を失っていないか。
経営者には、事業を始める力だけでなく、続ける事業と、やめる事業を決める責任があります。
経営者に必要な「4人の医者」の視点
企業を立て直す経営者には、4人の医者の役割が必要だといいます。
1.外科医
赤字事業から撤退する、過剰な固定費を削減する、借入条件を見直すなど、目に見える問題を取り除きます。
ただし、悪い部分を切り取るだけでは、会社の体質は変わりません。
2.内科医
意思決定の遅さ、責任の曖昧さ、機能していない会議、人事評価の矛盾など、組織内部の仕組みを治療します。
誰が決めるのか。何を基準に決めるのか。結果をどのように検証するのか。
この構造を変えなければ、同じ問題が再発します。
3.心療内科医
業績不振や事業撤退によって自信を失った社員に、もう一度前を向いてもらう役割です。
数字だけで人は動きません。一方で、優しい言葉だけでも会社は立ち直りません。
現実を正しく伝えたうえで、「自分たちは何のために存在し、何を取り戻すのか」を示す必要があります。
4.漢方医
最後は、会社の体質そのものを変えることです。
判断、返信、共有、改善の速度を上げる。失敗を放置せず、振り返りを次の行動へつなげる。同じ間違いを繰り返さない。
一度の改革ではなく、日々の仕事のリズムを変えることが、長期的な企業再生につながります。
破綻するオーナー企業と、成長するオーナー企業の違い
オーナー企業の強みは、意思決定の速さです。
オーナーが決断すれば、組織は一気に動きます。しかし、この強みは同時に、最大のリスクにもなります。
オーナーが正しければ、会社は速く成長する。
オーナーが間違えれば、会社全体が速く間違った方向へ進む。
破綻するオーナー企業では、取締役会や経営会議が、実質的にオーナーへの報告会になっています。
幹部に求められるのは、経営者としての思考力ではなく、オーナーへの忠実さと指示を実行する能力です。PDCAもオーナーの頭の中だけにあり、文章やデータとして組織に残りません。
その結果、オーナーの判断を牽制し、修正する人も仕組みも存在しなくなります。
一方、成長を続けるオーナー企業は、オーナー自身が「自分も間違える」という危機感を持っています。
そのため、自分に厳しい意見を言う社外役員や幹部を意図的に配置します。
また、長期ビジョン、企業のDNA、大型投資など、オーナーが直接判断する領域を限定し、それ以外は現場や幹部へ権限を委譲します。
大切なのは、経営者の権限を弱くすることではありません。
経営者の強い決断力を残しながら、その判断を補正する仕組みを持つことです。
優れた右腕は、社長の指示を伝える人ではない
強い会社の右腕は、社長の言葉をそのまま現場へ伝える人ではありません。
社長へ提案が上がる前に、
データはどうなっているのか
顧客の現場では何が起きているのか
本当に利益が残るのか
実行責任者は誰なのか
失敗した場合に、どこで撤退判断をするのか
を徹底的に検証します。
社長の考えを補強するだけでなく、必要であれば反対し、より良い案へ修正する。それが、経営を支える右腕の役割です。
社長の機嫌を取る人を幹部にするのか。事実を基に、耳の痛いことを言える人を幹部にするのか。
その人事判断が、会社の将来を決めます。
変革は「危機感」ではなく、「強烈な反省」から始まる
「このままでは危ない」
「もっと挑戦しよう」
「意識を変えよう」
こうした言葉だけで、人の行動が変わることはほとんどありません。
変革の出発点として必要なのは、社員一人ひとりが、「自分たちのこれまでの仕事の進め方にも、現在の問題を生み出した原因があった」と納得できる説明です。
そのためには、二つのことが必要です。
一つ目は、このまま現状を維持した場合に、会社や事業がどうなるのかを、データと客観的な論理で示すことです。
二つ目は、「売れない」「商品力が弱い」「人が足りない」といった表面的な問題ではなく、なぜその問題が長期間放置されたのかという真因を特定することです。
例えば、売上が計画未達であることだけを問題にしても、変革にはつながりません。
顧客別の限界利益を把握していたか
赤字受注を止める基準があったか
売上運賃比率を管理していたか
施策ごとの責任者と期限が決まっていたか
失敗を検証し、次の施策へ反映していたか
ここまで掘り下げて初めて、問題が「会社の危機」から「自分たちの仕事の問題」へ変わります。
組織図を変えても、人の行動が変わらなければ意味がない
企業変革で起こりやすい失敗が、組織変更や制度導入そのものを改革だと考えてしまうことです。
新しい部署をつくる。
新しい役職をつくる。
新しいシステムを導入する。
それだけでは、会社は変わりません。
組織や制度を動かすのは、最後は人だからです。
変革期において、人事は最も強いメッセージになります。
誰が責任者になったのか。
どのような行動が評価されたのか。
成果を出さず、行動も変わらない人を役職に残すのか。
新しい価値を生み出した人を、本当に抜擢するのか。
言葉で変革を語りながら、従来と同じ人事を続ければ、社員は「結局、何も変わらない」と判断します。
ただし、降格は罰ではありません。本人の人格を否定することでもありません。
役割、権限、期待成果を明確にし、対話と成長支援を行ったうえで、それでも役割を果たせない場合に配置を見直す。経営には、その公平さと覚悟の両方が求められます。
マネージャーと経営リーダーは、仕事が違う
優秀なマネージャーが、そのまま優秀な経営者になるとは限りません。
マネージャーの仕事は、与えられた課題を効率的に解くことです。
一方、経営リーダーの仕事は、正解のない状況で、
どの山に登るのかを決める
どのルートで登るのかを考える
仲間を巻き込み、最後まで登り切る
ことです。
この三つには、それぞれ異なる力が必要です。
「いただき」を決める力
自分たちは何を実現したいのか。どのような会社でありたいのか。
それは、他社の言葉を借りたビジョンではなく、経営者自身の経験、価値観、怒り、喜びから生まれたものでなければなりません。
困難なときに経営者を支えるのは、きれいなスローガンではなく、本人が本気で信じている価値観です。
登るルートを考える力
ビジョンだけでは、事業は動きません。
市場、顧客、競合、収益構造、組織能力を分析し、戦略と実行計画へ落とし込む必要があります。
経験や勘に加え、経営理論やフレームワークを使って仮説を検証する。数字だけでなく現場を見て、現場の感覚だけでなく数字で確かめる。
主観で山頂を決め、客観でルートを設計することが重要です。
仲間と登り切る力
リーダーシップとは、役職や命令によって人を動かすことではありません。
周囲の人が、自らの意思で「この人と一緒に進みたい」と選択している状態です。
そのためには、経営者個人の「IのWill」を、組織全体の「WeのWill」へ変えていかなければなりません。
自分がなぜこの事業をやりたいのかを、自分の言葉で語る。そして、その挑戦が社員、顧客、取引先、社会にとってどのような意味を持つのかを接続する。
さらに、自分たちは何者で、何を成し遂げるために集まった会社なのかを、日々の行動を通して示し続ける。
言葉と行動が一致して初めて、個人の志が組織の志へ変わります。
IKEMARTがつくるべき「商売の仕組み」
株式会社IKEMARTは、単に商品を仕入れ、販売する卸ECを目指しているのではありません。
顧客の仕入れ、販売、在庫、物流、販促、利益管理に入り込み、データと仕組みによって、顧客と自社の双方が継続的に利益を生み出せるBtoBソリューションプラットフォームを目指しています。
そのために、私たちは次のことを経営の原則とします。
売上だけでなく、顧客別・商品別・チャネル別の限界利益を見る
赤字受注や非効率な業務を、担当者の努力で覆い隠さない
意思決定の根拠と結果を記録し、組織の知識として残す
データと現場の事実を基に、経営判断を補正する
社長一人に依存せず、反対意見を言える幹部と仕組みをつくる
権限と責任を委譲し、経営を担える人材を計画的に育てる
失敗を責めるのではなく、同じ失敗を繰り返さない組織をつくる
経営者が間違えない会社をつくることはできません。
しかし、間違いを早く発見し、事実に基づいて修正し、学びを次の意思決定へつなげる会社はつくれます。
そして、経営者自身を補正できる仕組みをつくることこそ、経営者にしかできない仕事です。
挑戦する人と企業が成果を出せる商売の仕組みをつくる。
そのために、まず私たち自身が、経営者個人の能力や社員の頑張りに依存しない、学習し続ける会社でなければなりません。
それが、株式会社IKEMARTが目指す経営の姿です。