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現場の声を、決めつけずに受け取る
新しい梱包の手順を試した後、「前より使いやすくなりましたよね」と担当者に聞く場面を想像してみます。相手はうなずいてくれるかもしれません。ただ、その返事だけで、作業が楽になったと判断してよいのでしょうか。準備は進めやすくなった一方で、片づけには迷いが残っていることも考えられます。
私は、現場の声を大切にする経営には、聞く内容だけでなく、聞き方を整えることも必要だと思っています。相手がこちらの期待を推測して答える時間を減らし、自分が見たことや感じたことをそのまま話せるようにする。その工夫が、判断の土台を確かにしてくれると考えています。
評価を求める前に、動きをたどる
先ほどの場面なら、私が最初に聞きたいのは、「作業を始めてから終えるまで、どのように進めましたか」という問いです。使いやすかったという結論を先に求めず、準備、確認、梱包、受け渡しという流れをたどります。途中で探したものや、誰かに聞いたことがあれば、そこを具体的に教えてもらいます。
「困ったことはありませんか」だけでは、相手も思い出す範囲に迷うかもしれません。「梱包を始めるとき、何を確認しましたか」と場面を絞れば、行動を言葉にしやすくなります。反対に、こちらが予想していない話まで狭めないよう、最後には付け加えたいことも聞きたいと思います。
事実と感想は、どちらも大切です。ただし記録では分けます。「置き場所を探した」は行動であり、「少し分かりにくかった」は感想です。さらに「表示の位置が原因かもしれない」は私たちの解釈になります。この違いを残しておけば、後から確かめ直しやすくなります。
答えを誘導しない言葉に整える
「便利で安心な手順でしたか」と聞くと、便利さと安心感への答えが混ざります。作業は早くなったけれど確認には不安が残る、という声を受け取りにくくなります。私は、聞きたいことを分け、それぞれに答えられる形を選びたいと思います。
また、「改善した手順」という呼び方にも、良くなったはずだという前提が入ります。試している間は「変更した手順」と呼び、良くなった点、変わらない点、気になった点を並べて聞く。分からない、まだ判断できないという答えも残せるようにします。
これは言葉尻を整えるための工夫ではありません。期待に合う返事より、次に直す場所が分かる返事を受け取りたいからです。経営者である私自身が説明を重ねすぎず、まず相手の話を聞く姿勢を持ちたいと思います。
声の違いを、条件の違いとして読む
同じ手順でも、商品の形や作業する場所、担当する工程によって受け止め方は変わります。慣れている人と、初めて扱う人では、迷う箇所も違うでしょう。意見が分かれたときは、どちらかを正解にする前に、それぞれがどの場面を思い浮かべているかを確かめたいと思います。
運用の一例として、聞き取りの記録には、扱った商品の特徴、作業の段階、必要だった確認を添えます。名前で評価するためではなく、使いやすさが生まれる条件を見つけるためです。発言しやすい人の声だけに偏らないよう、普段とは異なる工程を担う人にも話を聞きます。
答える負担にも気を配ります。忙しい時間に長く説明してもらうより、落ち着いて振り返れる時間や、短く書ける方法を用意する。仕事を良くするための確認が、休息や集中を削るものにならないようにしたいと考えています。
聞いた声を、次の試行へ返す
聞き取りを始める前に、何を決めるための確認かを明確にします。梱包手順なら、置き場所を変えるのか、表示を足すのか、確認の順番を変えるのか。改善を取りまとめる担当と、変更後の使い勝手を確かめる担当を決め、振り返る機会も先に設けます。
試す内容は、集まった声から具体的に選びます。表示が見つけにくいなら、まず置き場所を変えてみる。その後、同じような商品を扱う場面で、探す動きや確認の往復がどう変わったかを見ます。改善案を話しただけで、仕事が良くなったことにはしない。その丁寧さを大切にしたいと思います。
経営の視点では、扱いやすさに加え、品質を保てるか、担当者の無理が減るか、追加の手間を含めても限界利益を支えられるかを確かめます。お客様へ安定して価値を届けるためには、現場が続けられる方法であることも欠かせません。
安心して話せることを、改善の力にする
意見を受け取った後は、何を変えるのか、今は何を変えないのか、その理由を伝えたいと思います。採用されなかった声にも、確かめる手がかりとしての価値があります。話したことがどう扱われたかが分かれば、次も具体的に伝えやすくなるはずです。
私が育てたいのは、聞く側の期待へ答えを合わせる関係ではなく、お互いの見ている場面を理解できる関係です。問いを少し整え、事実と解釈を分け、次の行動へつなげる。IKEMARTでも、こうした日々の対話を通じて、人が安心して工夫を持ち寄れる商売を目指したいと考えています。
株式会社IKEMART/代表取締役CEO 網屋純一