NEWS
ガバナンスは「守る仕組み」から「稼ぐ仕組み」へ
2026年改訂コーポレートガバナンス・コードから考える経営の本質
2026年7月、コーポレートガバナンス・コードが改訂されました。
「コーポレートガバナンス」と聞くと、法令遵守や不祥事防止、社外取締役の設置など、どちらかといえば「守りの経営」をイメージする方も多いかもしれません。
しかし、今回の改訂を読み解くと、その本質はむしろ逆にあります。
企業が適切にリスクを取り、成長投資を行い、限られた経営資源をより価値の高い場所へ配分する。
そのために、経営の意思決定の質を高める。
これこそが、これからのコーポレートガバナンスに求められている役割です。
今回は、2026年改訂版コーポレートガバナンス・コードから、私たち企業経営にとって特に重要だと感じるポイントを整理します。
10年間のガバナンス改革で、日本企業は本当に強くなったのか
日本でコーポレートガバナンス・コードの適用が始まったのは2015年。
そこから約10年、日本企業の収益力は確実に改善してきました。
一方で、大きな課題も残っています。
利益を生み出せるようになった企業が、その利益を次の成長へ十分に再投資できているのか。
ここが今回の改訂における重要な問題意識です。
企業が利益を上げても、それが現預金として積み上がるだけでは、将来の企業価値にはつながりません。
設備投資、研究開発、人材、DX、AI、M&A、新規事業などに資本を配分し、新しいキャッシュフローを生み出していく必要があります。
つまり問われているのは、
「どれだけ利益を出したか」だけではなく、「生み出した利益を次の成長へどう配分したか」
ということです。
ガバナンスとは「意思決定の質」を高める仕組み
今回の改訂を理解するうえで、非常に重要なのがガバナンスそのものの捉え方です。
コーポレートガバナンス・コードでは、ガバナンスを
透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み
としています。
私たちは、これをさらにシンプルに、
「経営における意思決定の質を高める仕組み」
と捉えることができます。
良いガバナンスを導入したから、翌月から売上が増えるわけではありません。
しかし、
どの事業へ投資するのか
どの事業から撤退するのか
人材をどこへ配置するのか
M&Aを行うのか
現金を持つのか投資するのか
誰に経営を任せるのか
こうした経営判断の質を継続的に高めることができれば、長期的には企業価値に大きな差が生まれます。
ガバナンスとは、経営者を縛るための仕組みではありません。
経営者がより良い意思決定を行い、適切にリスクを取るための仕組みなのです。
今回の最大のポイントは「成長投資」
2026年改訂の中で、特に重要なのが「成長投資」と「経営資源配分」です。
取締役会には、会社が目指す姿を定めるだけではなく、
「そこへ至る成長の道筋を構築すること」
が求められるようになりました。
ここで重要なのは順番です。
投資ありきではありません。
まず、
どの市場で、どの顧客に、どのような価値を提供し、どう成長するのか。
その道筋がある。
そのうえで、必要な資本を配分する。
経営戦略と投資判断を切り離してはいけない、ということだと考えます。
「何に投資するか」だけではなく「何に投資しないか」
成長投資には、設備だけではなく、
人的資本
研究開発
DX・AI
ブランド
知的財産
M&A
業務提携
スタートアップ投資
なども含まれます。
ここで経営にとって重要になるのが機会コストです。
例えば1億円をA事業へ投資した場合、その1億円をB事業へ投資していれば得られた利益を失っています。
だからこそ、
「この投資は利益が出るか」
だけでは不十分です。
「他の選択肢と比較して、それでもこの投資が最も企業価値を高めるのか」
まで考える必要があります。
資金だけではありません。
人材も、経営者の時間も、システム開発リソースも有限です。
だから経営資源配分とは、
何をするかを決めると同時に、何をやらないかを決めること
でもあります。
「売上」でも「利益」でもなく、資本コストまで考える
今回の改訂とあわせて重要視されている考え方の一つに、EP(Economic Profit:経済的利益)があります。
考え方はシンプルです。
EP = 税引後営業利益 − 投下資本に対する資本コスト
利益が出ているからといって、その事業が企業価値を生み出しているとは限りません。
例えば10億円を投資して5,000万円の利益を生み出していても、その資本に求められる期待収益率が8%であれば、本来8,000万円以上を生み出さなければ十分とは言えません。
つまり、
「黒字であること」と「価値を生み出していること」は同じではない。
ということです。
これは非常に重要な視点です。
売上が増えた。
営業利益が増えた。
それだけでは経営の評価として十分ではありません。
その利益を生み出すために、
どれだけ在庫を持ったのか
どれだけ設備投資したのか
どれだけ人員を投入したのか
どれだけ運転資金を使ったのか
まで含めて判断する必要があります。
資本を「価値を生む場所」へ動かし続ける
企業の中には、
利益を生み出している事業と、
資本を消費している事業が同時に存在します。
ここで経営がやってはいけないのは、
儲かっている事業が生み出した利益で、構造的に価値を毀損している事業を支え続けること
です。
もちろん、新規事業や成長投資は短期的に赤字になることがあります。
だから単年度だけで判断してはいけません。
重要なのは、
いつ黒字化するのか
ROICがいつWACCを上回るのか
どのKPIを達成すれば継続するのか
どの水準を下回れば撤退するのか
という時間軸と判断基準を事前に決めておくことです。
経営とは、資本を固定することではなく、
より価値を生み出す場所へ資本を動かし続けること
なのだと思います。
取締役会は「報告を聞く場所」ではない
今回の改訂では、取締役会の機能についても大きなメッセージが示されています。
取締役会は、月次業績の報告を聞き、承認するだけの場所ではありません。
本来議論すべきなのは、
3年後、5年後にどこで稼ぐのか
現在の事業ポートフォリオは正しいか
成長投資は十分か
撤退すべき事業はないか
CEOに経営を任せ続けるべきか
経営リスクは何か
次の経営者をどう育てるか
といったテーマです。
つまり取締役会は、
「過去を確認する会議」から「未来を決める会議」へ変わらなければならない
ということです。
CEOにも「結果責任」が求められる
今回の改訂では、CEOの選解任についても踏み込んだ内容になっています。
不祥事を起こしたから解任する。
健康問題が起きたから交代する。
それだけではありません。
本来、CEOは経営成果そのものについて評価されるべき存在です。
だからこそ、
企業価値
ROIC
成長率
キャッシュフロー
戦略遂行
人材育成
組織能力
などを総合的に評価し、
必要であれば経営トップを交代する。
経営を「人」ではなく「仕組み」として考えるなら、極めて自然な考え方です。
リスク管理は「守り」ではなく競争力になる
サイバーセキュリティ、経済安全保障、サプライチェーン、技術流出。
こうしたリスクへの対応も今回強化されています。
しかし、これも単なる「守り」ではありません。
例えばセキュリティ基準を満たせない企業は、大企業との取引そのものができなくなる可能性があります。
つまり、
リスク管理能力そのものが取引先から選ばれるための競争力になる
ということです。
成長とリスク管理は対立するものではありません。
適切なリスク管理があるからこそ、企業は大胆な投資を行うことができます。
IKEMARTがこの改訂から学ぶこと
コーポレートガバナンス・コードは上場企業を主な対象とするルールです。
そのため、すべての企業が形式的に同じ対応をする必要があるわけではありません。
しかし、今回示されている考え方は、成長を目指す非上場企業やスタートアップにとっても極めて重要です。
IKEMARTでも、
売上を増やすことだけを経営目標にはしません。
顧客、商品、在庫、物流、販促、システム、人材など、限られた経営資源をどこへ投入すれば、顧客と自社双方の利益が最大化するのか。
これをデータで判断し続けることが重要だと考えています。
例えば、
「売上が大きい顧客だから重要」
ではなく、
その顧客との取引によって、どれだけ限界利益とキャッシュが生み出されているのか。
「売れている商品だから残す」
ではなく、
在庫、物流費、返品、販促費まで含めて本当に価値を生み出しているのか。
「昔からやっているから続ける」
ではなく、
これからも経営資源を投入する合理性があるのか。
こうした問いを持ち続ける必要があります。
「管理する会社」ではなく「判断できる会社」をつくる
今回のコーポレートガバナンス・コード改訂から、私たちが最も学ぶべきこと。
それは、
ガバナンスの目的は、ルールを増やすことではない
ということです。
会議を増やすことでも、
承認プロセスを複雑にすることでも、
資料を増やすことでもありません。
重要なのは、
誰が、何を基準に、どのデータを見て、どの責任で意思決定するのかを明確にすること。
そして、その意思決定が間違っていた場合に、検証し、修正し、次の意思決定へ反映することです。
それができる企業は強い。
IKEMARTも、個人の経験や勘だけに依存するのではなく、データと仕組みによって意思決定の質を高められる会社を目指します。
最後に
これまで企業経営では、
「いくら売ったか」
が強く評価されてきました。
しかし、これからは違います。
どれだけ利益を残したか。
さらに、
その利益を生み出すためにどれだけ資本を使ったのか。
そして、
生み出したキャッシュを次の成長へどう再投資したのか。
ここまでを一つのサイクルとして考える必要があります。
売上から利益へ。
利益からキャッシュへ。
キャッシュから資本効率へ。
そして資本効率から企業価値へ。
2026年のコーポレートガバナンス・コード改訂は、単なる制度改正ではなく、
日本企業に「稼いだ後、どうするのか」を問い直している
ように感じます。
ガバナンスとは、会社を縛る仕組みではありません。
企業が挑戦し、適切にリスクを取り、成長し続けるための経営インフラです。
IKEMARTも、挑戦する企業や人が成果を出せる仕組みを提供すると同時に、私たち自身もまた、データと仕組みによってより良い意思決定ができる会社であり続けたいと考えています。